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福井地方裁判所 昭和45年(行ウ)1号 判決 1970年9月25日

原告 有限会社橋本商事

被告 敦賀労働基準監督署長

訴訟代理人 服部勝彦 外四名

主文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は「被告が原告に対し昭和四五年三月三日付是正勧告書によりなした宮崎慶三に係る労働基準法に違反するとする解雇是正勧告を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その理由として、

一、被告は原告に対し、昭和四五年三月三日付是正勧告書により、原告が労働者宮崎慶三を解雇したのは法定除外事由なくして解雇予告をせず、または三〇日分の予告手当を支払つていないから労働基準法二〇条に違反するとして是正勧告をした。

二、しかし右勧告は次に述べる法定除外事由を看過した違法があり、取消を免れない。

(一)  原告は宮崎慶三を昭和四四年一一月一七日から同年一二月三一日までの期間を定めて使用したから、労働基準法二一条二号に該当し、同法二〇条の適用をうけない。右宮崎は同四五年一月四日から同月一二日までの間、注文取りおよび配達業務に従事していたが、これは出来高払いの請負契約の関係にあつたから、この間は雇傭関係は存在しない。

(二)  仮りに昭和四五年一月一二日まで引続き雇傭関係にあつたと看倣されたとしても、同法二一条但書の二ヵ月を超えて引続き使用されるに至つたものには該当しないから、依然同条二号の適用がある。と述べ、被告の本案前の主張を否認した。<証拠省略>

被告指定代理人は、本案前の答弁として主文同旨の判決を求め、その理由として、原告が取消を求める解雇是正勧告は労働基準法違反者に対してその反省を促し、自主的是正を求めるための指導処置に止まり、それ自体何らの法的効果を生ぜしめるものではないから、行政処分に該当しない。したがつて、行政事件訴訟によつて右処置の取消を求めることは許されず、本件訴は不適法として却下されるべきである。

と述べ

さらに、本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因第一項の事実中、被告が本件勧告をしたとの点を否認し、その余の事実は認める。第二項の事実中、宮崎との間に昭和四四年一一月一七日から同年一二月三一日まで雇傭関係があつたとの点を認め、その余は争うと述べた。 <証拠省略>

理由

<証拠省略>によると、敦賀労働基準監督署労働基準監督官岩原聰夫が、昭和四五年三月三日付是正勧告書をもつて、原告主張のとおりの是正勧告をしたことが認められる。

一方、<証拠省略>によると、本件勧告は労働省労働基準局長の通達たる監督業務運営要領に基ずく処置であること、一般に是正勧告というのは、労働基準監督行政を実施した際に発見された法違反に対する行政指導上の措置であるに止まり、勧告をうけた者が自主的に是正することを、右是正勧告をした労働基準監督官として当然期待するであろうが、たとえ勧告に従つた是正をしないにせよ、何らの法的効果を生ずるものではないことが認められる。

しかして、行政事件訴訟法三条の抗告訴訟の対象たる行政処分とは、当該処置がそれ自体において直接の法的効果を生ずる行為すなわち直接に国民の権利自由に対する侵害の可能性のある行為に限られると解されるから、本件是正勧告は抗告訴訟の対象とならない。

したがつて、本件訴は不適法として却下するべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山内茂克 熊谷絢子 大淵武男)

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